写真を整理していたら、懐かしい写真が出てきました。
2020年7月25日。
三輪駅近くにあった「居酒屋かわさき」へ、一人で飲みに行ったときの写真です。一度だけ飲みに行ったことは覚えていたのですが、何を食べ、何を飲んだのか、店の中がどんな様子だったのか、細かなことはすっかり忘れていました。
ところが写真を見ると、六年前の夜のことが少しずつ戻ってきます。
入口には、橙色に光る「活魚 居酒」の看板。「かわさき」と書かれた暖簾をくぐって店に入っています。

店内で何より目を引くのは、壁いっぱいに並んだフグの尾びれです。厨房の上には大きなフグ提灯が吊られ、その向こうには焼き台。カウンターには焼酎の瓶がずらりと並んでいます。

写真には料理も残っていました。天ぷらを食べ、酒を飲んでいます。酒は三輪の今西酒造の「三諸杉」。ラベルには「大和米 露葉風100%」「山乃かみ酵母使用」とあります。当時の私は、そんな店の風景を特別なものとして撮ったわけではなかったと思います。料理が出てきたから撮る。酒を飲んだから撮る。ちょっと面白い店内だったから撮る。ただそれだけの、何気ない写真でした。


ところが六年後に見返してみると、写真の意味がまったく違って見えてきます。
もう一つ、今回初めて気づいたものがありました。店内の写真の右上に、「鱧ずくし」と書かれた献立が写っているのです。撮った本人は、そのことさえすっかり忘れていました。

写真というものは不思議です。人間の記憶から抜け落ちてしまったものを、何年も経ってから、ひょいと目の前に差し出してくれます。そして、撮ったときには何でもなかったものが、時間が経つことで大切な記録になることがあります。2020年7月25日の私は、この店がその後どうなるのか知りません。もちろん、六年後の自分が、この場所に再び深く関わることになるとも知りません。ただ、一人の客として暖簾をくぐり、三輪の酒を飲み、料理を食べて帰りました。

だから、この写真には「その後」を知ってから作った物語がありません。そこにあるのは、まだ何も始まっていなかった頃の「居酒屋かわさき」です。
そして六年後。私は、もう一度この店の戸を開けることになります。今度は、客としてではありません。――つづく。


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